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「お前は幻斎の手下か?」
伝兵衛が頭巾の男に尋ねた。
頭巾の男は答えない。
伝兵衛は無視されたことにむっとしたが、この男にどういう態度に出てよいものか迷った。
鬼道信虎より柚子と武丸の始末を命ぜられた際、幻斎なる忍びの手下を手助けに送るという話は聞いていた。
が、具体的にどんな者がやって来るかは知らない。
それゆえに確かめたのだが。
「おい」
腹を決めた伝兵衛はもう一度、尋ねた。
なるべく平静を装う。
やっと頭巾の男が反応した。
こちらを向く。
物言わぬ相手に再び伝兵衛は不安になった。
「答えぬか」
伝兵衛の言葉に頭巾の男が頷いた。
やはり幻斎の手の者だ。
伝兵衛は気持ちを切り替えた。
武丸に視線を戻す。
「姉上様を守ろうとするその意気、ご立派ですぞ」
そう言って伝兵衛は刀を抜いた。
相変わらず膝が震えている武丸の前に立つ。
「わしが自ら、お相手しよう」
武丸の顔が青ざめた。
伝兵衛は知っているのだ。
武丸に剣の才が無いことを。