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骸の巨体が吹き飛んだ。
まるで重さが無くなったようだ。
地面を二、三度跳ね、木々をなぎ倒し、ようやく骸の身体は止まった。
あれほどの不死身ぶりを見せていた骸が這いつくばったままうめき、立ち上がることさえ出来ない。
初めて見せる苦しげな表情。
「痛いだろう?」
冥が笑った。
「思い出したかい、痛みってやつを」
冥が骸に近寄る。
骸が情けない声をあげた。
太い腕で頭を抱え、背中を丸めて震える。
「二度とあたしに逆らわないように、お仕置きしてやるよ」
冥の瞳が光った。
紅い舌が、ちろりと唇を舐める。
冥が右手を振り上げた。
その手が振り下ろされる直前。
今度は冥の前に柚子が立ち塞がった。
縮こまっていても巨大な骸の身体を目一杯両手を広げ、必死に庇おうとする。
冥の右手が止まった。
柚子の眼と冥の眼が合う。
「やめて」
柚子が言った。
冥の顔が更なる怒りに歪んだ。
「お前もあたしに逆らおうっていうのかい?」




