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死人のような白い肌に朱が差した。
「何のつもりだい?」
いらだちが冥の語調を荒くした。
「うう…」
骸が低い声で唸りつつ、首を左右に振る。
柚子の好きなようにさせてやれという意味か。
その瞬間、生暖かい突風が雑木林を吹き抜けた。
場の雰囲気が、がらりと変わった。
辺りの空気が突如、重さを増したように骸と柚子にのしかかった。
柚子は思わず涙を止め、目の前に居る骸の背中を見上げた。
「うー」
骸が怯えた。
巨体が小刻みに震える。
この場の異変は、骸と対峙する冥の小さな身体から発しているのだ。
骸は冥の異常な殺気をまともに受けていた。
身体の大きさでは比べものにならないほど勝っている骸が冥に圧倒されている。
冥の小さな身体が、ぽーんと飛び上がった。
骸の顔の前まで飛ぶ。
「はっ!」
短い気合いと同時に冥が蹴りを放った。
細い脚が骸のこめかみを打つ。
「があっ!!」
骸が苦悶の声をあげた。




