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住職の期待には応えられないのだ。
「つらくなったら、いつでもここへ帰ってきなさい。何事にも遅いということはないのじゃから」
柚子はそのまま、冥と骸と共に寺を後にしたのだった。
住職の最後の言葉が、柚子の頭の中で何度も繰り返された。
(必ず仇を討つと誓ったのに…)
自分が情けなかった。
勝蔵の死体に必死にすがる新郎新婦の姿が自分と今は亡き弟、武丸のように見え、父と母を失った哀しみが大波の如く押し寄せてきたのだ。
仇を討つことで、あの二人に同じつらさを味あわせたかと思うと胸がずきずきと痛んだ。
「こんなことぐらいで泣くんじゃないよ」
泣きやまぬ柚子に冥が冷たい声を浴びせた。
「こっちはお前の願いを叶えるために付き合ってやってるんだよ」
この言葉は不可解であった。
以前、柚子に助力する理由を訊かれた際、冥は自分自身も鬼道信虎に恨みがあると答えた。
松葉屋を討つことは信虎に痛手を与える。
冥にとっても無関係ではないはずだが…。
泣き崩れる柚子は、そのことに気づかない。
「いつまでも泣いてないで、ほら、立ちな!」
そう言って冥が柚子に近づこうとすると、その行く手を遮る者が居た。
骸だ。
巨体の後ろに柚子を隠し、冥から守ろうとしている。
「はあ?」
冥の表情が曇った。




