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冥伝  作者: もんじろう
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「さあ、行くよ」


 冥が言った。


 何の感情も無い声だった。


 三人の乱入者は大広間を去った。




 ほどなく松葉屋は、逃げだした客の報せを受けた役人と野次馬たちで騒然となったが、その頃には三人はすでに郊外へと移動していた。


 雑木林の中に入ったところで、柚子が耐えていた涙をとうとうこぼし始めた。


 一度、(せき)を切ると涙は止めどなく頬を濡らす。


 柚子は歩みを止めた。


 冥と骸も止まる。


 柚子はその場に座り込み、地面に顔を向け嗚咽(おえつ)を洩らし始めた。


「あーあー」


 冥が呆れた。


「困った娘だね」


 泣きじゃくる柚子に骸はおろおろとなる。


 柚子に近寄って慰めるつもりなのか、そっとその肩に触れた。


 勝蔵を一撃で殴り殺した拳が今は細心の注意でもって、柚子に触れている。


「まだ、先は長いっていうのに」


 冥の声は柚子には届かない。


 柚子は、以前に会った古寺の住職と別れたときを思い出していた。


 住職は雲次の死体を手厚く葬った後で、出発する三人を見送ってくれた。


「どうしても行くのかな?」


 住職は言った。


 柚子を見つめる瞳は慈愛にあふれている。


 親が子供を見る眼のようだ。


「違う道もありますぞ」


 住職は何かを見抜いているのだろうか。


「はい」


 答えた柚子は眼を伏せた。


 住職をまともに見ることが出来なかった。

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