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勝蔵は童女の異様な迫力に動きを止めた。
まるで肉食獣ににらまれた小動物であった。
「あたしは悪党は嫌いじゃない。でも、お前は面白くないよ」
勝蔵にそう言った童女が、今度は柚子を見る。
「お前の選んだ運命だ。さあ、けりをつけな」
柚子が小さく頷いた。
頭部に斬り込んだ猪熊の刀を引き抜いた大男(もちろん、この男は骸、童女は冥であった)が勝蔵の首に手を伸ばした。
骸の手に襟首を掴まれ、勝蔵が持ち上げられる。
「ひ、姫様っ!」
勝蔵が必死に叫んだ。
「お許しを! どのような償いでもいたします! か、金を! いくらでも金を払います!」
柚子の瞳に青白い怨みの炎が、ぱっと燃えた。
「あの世で父上と母上、武丸に詫びるがよい」
柚子の言葉と同時に骸が拳を振り上げた。
「や、やめて!!」
それが勝蔵の最後の叫びだった。
骸の拳が顔面に叩きつけられる。
鮮血が飛び散った。
勝蔵の身体から力が抜けた。
即死だった。
骸が勝蔵を捨てる。
それまで、まるで時が止まったかのように凍りついていた新郎新婦が我に返った。
二人は四つん這いで、勝蔵にすがりつき泣きだした。
「親父っ!」
「義父様っ!」
泣き叫ぶ二人を見て、柚子がたまらず眼を伏せた。
二人の姿が父母と弟を殺された自分と重なって、胸が刺されるように痛んだ。
柚子の眼に涙がにじんだ。




