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冥伝  作者: もんじろう
52/180

52

 大男の口が開き、猪熊の悲鳴をかき消す大声で咆哮した。


 猪熊を捕らえた両腕に力が込めらていく。


 猪熊の肋骨(あばら)が、枯木のような音を立て次々と折れた。


 猪熊の口から大量の血が吐き出される。


 折れた骨が内臓に突き刺さったのだ。


「むうっ」


 猪熊はうめいて動かなくなった。


 何とも、むごい死にざまだった。


 大男が両腕を緩めた。


 猪熊の死体が畳へと落ちる。


 二人の闘いをずっと窺っていた勝蔵は猪熊が倒されたと見るや、番頭と若い新郎新婦を置き去りにして一人だけ逃走を計るべく、参列客の出ていった襖へと走りだした。


「あっ」


 勝蔵は何かにつまずいて、その場に転倒した。


 慌てて起き上がろうとした勝蔵のそばに、いつの間にか童女が立っていた。


 童女が勝蔵の足を引っ掻けたのだ。


 倒れた勝蔵を童女が見下ろしている。


 猫のような大きな瞳が、きらりと光を放った。


「自分だけ逃げようとはね」


 童女が言った。


 口元が微かに笑っている。

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