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致命の一撃である。
猪熊が勝利を確信するのも、当然と言えた。
しかし。
先に大男と戦った者たちの剣撃と同じく、一滴の血も流れ出していない。
「むっ」
即死のはずの大男の両腕が自分を抱きしめたことに、猪熊はそのとき初めて気づいた。
慌てて身を引こうとするが、すでに遅かった。
相手の頭に斬り込んだ刀はびくとも動かず、大男の両腕は万力の如く締めあげてくる。
自由を奪われた猪熊の目前に、刀が食い込んだままの大男の頭が近づいた。
斬られた部分の黒布が、はらりと落ちる。
「ぎゃあっ!!」
猪熊の悲鳴。
眼の前の大男の顔は、とても生きた人のものとは思えぬ。
どうやら包帯を頭にぐるぐると巻いていたようだが、猪熊の斬撃によって今やそれも解け始めている。
肉の無い骸骨のような顔の中央から、血走った両眼が猪熊をにらみつけた。
「ひぃ!」
かつて体験したことの無い恐怖に猪熊はわめいた。
闘志はすっかり消え失せてしまった。
「があああっ!!」




