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逃げ出した客たちが騒ぎ、役人が現れ、そのうち城にまで伝わるはず。
そう考えていた。
「松葉屋。私は父上の仇を討ちに来た。覚悟せよ」
柚子が言った。
と同時に隣の黒布の人物が、前へと一歩踏み出した。
布の穴から眼だけを出した者の接近に、相対した侍たちは身構えた。
一人の侍が勝蔵に目配せする。
指示を仰いでいるのだ。
勝蔵の表情が変わった。
今まで見せていた顔は、いわゆる表の顔だった。
善良な商人としての仮面だ。
いかにも人が良さそうだったその顔が、今は別人のように冷酷で残忍な雰囲気を立ちのぼらせていた。
嫁入りした娘はもちろん、息子の吉蔵にさえ見せたことのない勝蔵の本性であった。
「女は捕らえろ。あとは殺せ」
勝蔵の命令に新郎新婦は青ざめたが、侍たちは「待ってました」とばかりに動き始めた。
四人の侍が前進してきた黒布の人物に疾風の如く斬りかかった。
四本の刀が黒布を切り裂く。
斬ったという手応えがあった。
「?」




