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吉蔵はといえば怯えながらも、か弱い新妻を自らの腕の中に、しっかりと抱きしめている。
侍たちの前衛の四人が刀を抜いた。
「何ですか、あなた方は?」
刀を向けられた三人に勝蔵が訊いた。
「うふふふ」
笑い声がした。
女の声だ。
大広間中に響き渡る。
その声が童女の口から出ていることに気付いた勝蔵は、ぞっとなった。
「松葉屋」
童女が言った。
「その娘に見覚えがあるだろう」
童女が自分の逆側に立つ娘を指差した。
「それとも恩知らずなお前は、もう忘れてしまったのかい? ほら、よく見てみなよ」
童女の言葉に勝蔵は不可解ながらも目を凝らした。
記憶を探す。
「あっ」
勝蔵が思わず声を上げた。
あまりの異常な状況と、その娘の以前との様子の違いに今の今まできづかなかったが、確かに勝蔵は娘を知っていた。
「ゆ、柚子姫様!?」
あり得ないことであった。
勝蔵は小諸城下の豪商として小諸義時とも深い親交があった。
柚子にも何度か会っている。




