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信虎が問うた。
「配下の者が独断にて追ったようですが…報せがないところをみると、すでにその怪しき二人組に返り討ちにあったやもしれません」
「では、すでに死んでおるのか?」
「分かりませぬ」
幻斎のしわがれ声は抑揚が無い。
感情が見えない。
主である信虎に対して敬意は払っているが、配下というよりは対等な立場であるかのように堂々としていた。
それに信虎も取り立てて不快は感じていない。
大虫が消え二人きりになり、お互いの立場に留意せずとも良いのだ。
信虎と幻斎が出逢った十三年前に戻っている。
「小娘一人、殺せんとはな」
信虎は不満げだ。
「総出で当たらせますれば、さほどの時はかからず見つかるはず」
「………」
「気がかりは柚子を助けた二人組の正体が何者なのか」
「他国の間者か?」
信虎の眉が吊り上がる。
「分かりませぬ。ただ、柚子にそれほどの利用価値がありましょうや?これが嫡男ならば隣国が敵討ちを名目に担ぎ上げることも無くはない。しかし、武丸はすでに亡くなっている」
「何の狙いがあるにせよ、柚子を殺せば利用は出来ぬ。他国に逃げられる前に何としてでも捕らえよ」
「御意」
幻斎は深々と信虎へと頭を下げた。
伏せた面に単眼が爛々と輝いていた。




