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頭巾の男は二人の若者には興味を示さなかった。
「クキキ」
甲高い声が男からもれる。
笑っている。
頭巾で表情は見えないが笑っている。
そのとき、二人の若者と頭巾の男に近づいてくる複数の人の声が聞こえた。
仲間の死に金縛りの如くなっていた若侍は、ようやくその呪縛から解放された。
腰の刀を抜くと「姉様」と呼んだ娘を自らの背後へと庇った。
姉を守ると覚悟を決めていた。
四人の立派な身なりの侍が現れた。
「伊崎伝兵衛っ!」
先頭の侍を見た娘が我にかえって叫んだ。
嫌悪が恐怖を凌駕したのだ。
「伊崎伝兵衛」と呼ばれた侍は頭巾の男の反対側に立った。
若者たちを挟んだ形になる。
伝兵衛は大柄で、やや太った男だった。
両の眼が離れていて額が広い。
唇は薄く、その両端はへの字に下がっている。
二人の若者を見た伝兵衛は安堵の表情を浮かべた。
「やっと捕まえましたぞ、柚子姫様、武丸様」
いやらしく笑った。