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殺したはずの骸の姿に未体験の恐怖が心臓をわし掴みにした。
全身が凍った。
完全に元に戻った骸が太い指を伸ばし、雲次の首を握った。
「があっーー!!」
唸り声と共に骸は雲次の首をへし折った。
細長い四肢から力が抜け、だらりと下がる。
即死だった。
「死を自由に操れるのは選ばれた存在だけなんだよ」
雲次の死体に冥が言った。
「うう…」
骸が、うめいた。
先ほど切り刻まれた名残は毛ほども無かった。
「そう」
骸のうめきに冥が答える。
「あたしはその選ばれた存在なのさ」
鬼道信虎は怒りの表情を浮かべた。
目の前の小男の話が意に沿うものではなかったからだ。
「失敗したということか?」
信虎の声は低い。
小諸城の天守閣の一室に、よく響いた。
下座に控えた大虫は頭巾頭を床に着け、平伏している。
全身にうっすらと汗をかいていた。
「はっ。申し訳ございません」
大虫の声は震えている。
その隣には一人の老人の姿が。




