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二人の距離が近づいたとき、月をおおっていた分厚い雲が、一瞬流れた。
骸の顔が月光に照らしだされる。
骸の両眼が、かっと開いた。
血走った眼が雲次の姿を捉える。
雲次の両手から無数の光が走った。
大虫が使った鋼糸と同じ物だ。
これは片側にだけ重りがついていて、反対の端は雲次の手に握られている。
鋼糸が骸の身体にぐるぐると巻きついた。
骸は四肢の自由を奪われた。
刃物並みの切れ味を持つ鋼糸が肉に食い込んでいく。
「うがっ」
骸が唸った。
苦痛は感じていないのか、そのまま立ち上がろうとする。
「馬鹿め」
雲次が呟いた。
両手を巧みに動かし、鋼糸を操った。
鋼糸が一気に骸の身体を斬り刻み、骸は無惨な姿に千切れ飛んだ。
雲次が「ふぅ」と息を吐いた。
最大の障害は取り除いた。
大虫の言うほどの敵ではなかった。
まともにやり合えば強敵かもしれないが、忍びである雲次には関係ない。
ただ、勝てば良いのだ。
(残りは二人)




