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雲が月を隠した闇の中、寺の庭へと侵入する影がある。
頭が小さく、妙に手足が長い人の影だ。
雲次であった。
大虫と別れた後、雲次は柚子一行の痕跡を見つけた。
後をたどるのは簡単だった。
雲次は古寺を発見した。
三人が信虎を討つ話をしていたとき、雲次は離れた林の中に潜んでいた。
大虫の言った通り大男と子供、そして柚子。
あとは寺の住職が一人。
雲次は思案した。
そして。
(殺れる)
結論を出した。
大男さえ倒せば残りは楽だ。
大虫は大男がただ者ではないと言っていたが、そうは見えない。
まるで素人だ。
(でかいだけだ)
雲次がここに来たのは己の手柄のためではない。
兄貴分として慕う大虫のためであった。
(要は柚子を殺してしまえば良い。それならば頭領も怒るまい)
雲次は気配を消して本堂へと向かった。
(居た)
本堂の入口前に岩のような塊が鎮座している。
骸だ。
眼を閉じて両膝を抱き抱えている。
眠っているのか動かない。
雲次が、そっと距離を詰めていく。




