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もし二人が柚子を騙そうとしているとして、もはや何も失うものはないのだ。
それと、もうひとつ。
骸だ。
冥の隣で大きな身体を屈めこちらを見つめている骸の血走った目が、どういうわけか柚子の気持ちを安心されるのだ。
容姿は確かに恐ろしい。
それなのに…。
(この人には悪意がない)
強いて言うなら直感であった。
「よし、決まった」
冥が満足げに言った。
その日の深夜。
柚子たちはまだ古寺に居た。
冥が「ゆっくり休んだら出発するよ。鬼道何とかを殺す相談は道すがらにしようじゃないか」と提案したのだ。
確かに小諸城からの五日間、必死の逃亡によって柚子の身体は相当に疲弊していた。
常に追っ手の影に怯え、満足に眠ることさえ出来ずに居たのだから。
復讐の決意によって興奮していた柚子はすぐにも出発したかったが、現実に自分の足がふらつきおぼつかないのを見て、しばらく休養することに同意した。
住職にも許しを得て、しばしの逗留が決まった。




