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伝兵衛から柚子を助けたとき、冥は柚子の名を呼んだ。
「ん? そうだっけ?」
「はい。確かに私の名前を」
「それは…」
冥は渋い顔になった。
しばらくの沈黙。
「そうそう、あの不細工な侍が呼んでいたのを聞いたのさ」
冥の答えは一応、辻褄は合っている。
柚子は釈然としなかった。
「あなた方は、いったい?」
「あたしと骸は旅をしてる。あのとき、たまたま通りかかったのさ」
話すほどに疑問が深まっていく。
「それより、これからどうするつもりなんだい?」
冥が訊いた。
「これから…」
柚子は言葉に詰まった。
しかし、腹はすでに決まっていた。
(仇を討つ)
瞳の奥の炎が勢いを増した。
今や鬼道信虎こそが柚子の生きる源だった。
復讐を果たす覚悟はある。
しかし、その方法が…。
「うふふ」
冥が笑った。
「分かるよ。仇を討つんだろ」
柚子は、はっとなった。
「そういうの好きだよ」
冥が続けた。
「一人で出来るかい? その…鬼道…何だっけ?」




