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「ううっ」
骸が声を荒げた。
「怒るんじゃないよ」
冥が、にやりと笑う。
「あいつが仲間を集めて、また襲ってくるかもね。そのほうがずっと面白くなる。あたしは退屈しのぎが出来る」
「うーっ」
「あの娘はちゃんと守るよ、約束だからね」
「うう…」
骸の視線が再び寺の本堂へと向いた。
柚子が庭へと降りてきたのだ。
背後の気配に気づいた冥が振り返る。
柚子の顔は冥と同じくらい白く、血の気が失せていた。
両眼の奥には激しい炎が燃え盛り、ぎらぎらと輝いている。
鬼道信虎への恨みの炎である。
「いい眼をしてるじゃないか」
冥が言った。
柚子は黙って二人のそばへと足を進めた。
「お二人には感謝しています」
柚子は深々と頭を下げた。
二人を軽んじる様子は無かった。
「命を助けていただき、ありがとうございました」
「気にすることはないよ。人助けさ」
「冥様は…」
柚子が疑問を口にした。
「何故、私の名を知っておられたのですか?」




