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諸国を旅する浪人にすぎなかった信虎を義時が拾い上げたのだ。
そのとき、六歳であった柚子は義時と信虎の出会いが、どのようなものであったかは知らない。
が、自分が初めて信虎と会った日のことは、はっきりと覚えている。
「柚子や。今日からわしの軍師となる鬼道信虎じゃぞ」
義時はそう言って嬉しそうに笑った。
その後ろで平伏していた信虎が、ゆっくりと面を上げた。
信虎と柚子の目が合った。
柚子は泣きだした。
父と同年代の容姿としては美形とも言える信虎の両眼が恐ろしかったのだ。
一見、柔和に見える瞳の奥に子供ながらの鋭敏な感覚を持ってしか分からない冷酷な闇が、とぐろを巻いていた。
「柚子、どうした?」
困った顔をする義時の背後から信虎の双眸が、まんじりともせず柚子を見つめている。
今でも思い出すだけで柚子の身体は震えだす。
信虎は軍師として、なかなかに優秀だった。
戦下手な義時を支え、いくつかの大きな戦いに勝利した。




