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「こいつのおかげで助かった。子供騙しでも無駄じゃないな」
大虫は自分の首をねじ切った骸の怪力を思い出した。
ぶるっと震える。
大虫は雲次に向かって振り向き、押し黙った。
雲次が姿を消していたからだ。
一瞬のうちに、この場を立ち去ったのか。
辺りに気配は無い。
「雲次のやつ…」
大虫が呟いた。
「奴らを追ったな…」
戦国大名は血で血を洗う乱世を戦い抜かねばならない。
たとえ卑怯な手を用いたとしても、よほどのことがない限りそれは非難されなかった。
勝つために相手を欺くのは当然。
欺かれた側が弱かったに過ぎない。
実の親兄弟が戦う時代。
その状況からすれば、小諸義時が家老の鬼道信虎に謀反を起こされ城を奪われたことなど、さして酷い話ではなかった。
むしろ、敗れた義時を無能と笑う者さえ居た。
弱小戦国大名の一人が死んだ。
それだけのことだった。
鬼道信虎は十年前に小諸家に仕官した。




