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首なしの大虫が驚くべき速さで身を起こし、立ち上がった。
「くきき」
首なし死体から洩れる笑いは紛れもなく大虫のものだ。
「く、も、じ」
一文字、一文字を嫌にはっきりと発音して大虫が雲次の名を呼んだ。
伝兵衛が話しかけても一言も発しなかった大虫が首なしとなった今は普通に喋っている。
「来るのが遅いんだよ、この馬鹿っ!!」
大虫の拳が雲次の顔を打った。
「すみません」
そう言って頭を下げた雲次は顔色ひとつ変えない。
「それにしても、これはいったい?」
「思わぬ邪魔が入った」
「邪魔?」
「お前がぐずぐずしてる間に俺は殺されちまったんだよ!」
大虫がもう一発、雲次を殴った。
雲次の高い鼻から血が滴り落ちた。
それでも雲次の表情は変わらない。
「すみません」
「正直、肝が冷えたぜ」
大虫の怒りは、ようやく収まった。
今度は先ほどの敵について考え始める。
考えるといっても、頭がないはずだが…。




