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「止まってはなりません!」
もう一人の侍が言った。
「右京」と若侍。
「でも、左門が」
娘も弾む息を抑えて言った。
「左門は残ります」
右京と呼ばれた侍は静かに言った。
「「え?」」と二人の若者。
「左門は残って追手を食い止めます」
右京は二人の手を取って、再び走りだした。
若者二人は心配そうに後方を気にしながらも右京についていく。
三人は走った。
すでに左門の姿は見えない。
草原は果てしなく続く。
右京は娘のほうに体力の限界が迫っていることに気づいた。
「姫」
右京が言いかけた、そのとき。
前方に立ち塞がる気配を感じ、足を止めた。
後ろの二人が右京にぶつかりそうになる。
いつの間に先回りされたのか?
一人の男が逃亡者三人の前に立っていた。
「右京?」
まだ敵に気づかない娘が言った。
右京は答えない。
対峙した相手をじっと見ている。
その男から発せられる殺気が右京に向けられていた。
目をそらせば、その瞬間に攻撃されるに違いない。
男は動かない。
黒い忍び装束姿だ。
顔を頭巾で隠し表情が見えない。
「!」
右京は息を飲んだ。
敵の左手が掴んでいる物に気づいたからだ。
血まみれの男の死体だった。
「左門っ!」
右京が叫んだ。
その声に若者二人もようやく状況を把握した。
「きゃっ!」
娘は悲鳴をあげ、へたり込んだ。