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信虎が怒った。
「おや? 自覚ないのかい?」
「貴様っ!!」
「やれやれ。あたしが上なんだよ。望みを叶えたくないのかい?」
「む…」
信虎が黙った。
「望み?」
武丸が割って入る。
「信虎の望みを叶えるつもりなのですか!?」
「そうさ。こいつの望みを叶えて、お前と同じように魂を従わせるんだよ」
「そんな…」
「お前にも、こいつの望みを叶えるのを手伝ってもらうよ。初仕事になるね」
「信虎の望みとは何ですか!?」
「教えてやりなよ」
女が信虎に言った。
「わしの望みは…」
信虎がいやらしく笑った。
「天下を獲ることよ」
「!?」
武丸は絶句した。
戦国大名、鬼道信虎の野望は武丸の復讐心と同じく、死をもってしても衰えはしなかったのだ。
しかし、己の魂と天下を同価値と思うとは。
自分たちとは根本的に違う思考を持つ信虎に武丸は嫌悪感をさらに増した。
しかも冥、否、冥の本体である女は、その野望を叶えようとしている。