178
「はい」
武丸が答えた。
納得していた。
代償は支払わねばならない。
「うふふ。お気に入りが、また一人増えたよ。嬉しいねぇ」
女が満面の笑みを浮かべた。
「ああ、そうだ」
女が言った。
「一応、お前にも言っておこうかね。いずれ分かることだし」
「………」
「新しくあたしの物になりたいって奴が、もう一人居てね。紹介しておくよ」
女がふっと息を吹くと、その横に男の顔が出現し始めた。
年配の男だ。
武丸がよく知る男だった。
「信虎っ!!」
武丸は驚きの声を発した。
武丸が命を奪った信虎の顔が、確かにそこにあった。
「む。武丸か?」
信虎が言った。
信虎の声も武丸と同じく、どこか空虚な響きを持っている。
それが死んだ者の証なのか?
「これはいったい!?」
武丸が言った。
面食らっていた。
「言ったろ。あたしは魂を集めて従わせるのが好きなんだよ」
女が答えた。
「しかし、この男は」
父と母を殺し、城を奪った極悪人ですと続けたかったが、怒りのあまり途中で口ごもってしまった。
「あたしはね」
女は悪びれた様子もない。
「いろんな魂が欲しいんだよ。元々、こいつの悪党ぶりも嫌いじゃないしね。お前みたいに純粋で綺麗なのも、こいつみたいにどす黒くて汚ならしいのもどちらも趣きがあって良いものだよ」
「汚ならしいだと!?」