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武丸は再び暗闇の空間に居た。
前回と同じく身体の自由はきかない。
(二度、死んだのか?)
武丸として死んだときとは違い、今は満足していた。
自らの歯が信虎の頭を噛み砕いた感触をしっかりと覚えている。
確実に信虎を殺害したのだ。
復讐を果たし、姉も守った。
この先、どうなろうとも悔いはなかった。
武丸の前に女の顔が現れた。
冥の本体だ。
「終わったね」
女が言った。
女の顔の横に冥の顔が浮かびあがった。
「ちゃんと面倒見たよ。いろいろ邪魔が入って鬱陶しかったけどね」
冥が言った。
「よくやった。じゃあ、戻りな」
冥の顔が女の顔に近づき、くっついた。
ぐにゃぐにゃと混ざり合う。
まるで骨など無いかのようだ。
二人の顔は次第に動きを弱めた。
いつの間にか冥の顔は女の顔に吸収され、ひとつになっていた。
「お前には約束通り、あたしの物になってもらうよ。どんなことでも絶対に服従するんだ、いいね?」
女が言った。