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柚子は眼差しの持ち主を、はっきりと思い出した。
何故、気づかなかったのか?
柚子の身体を後悔と悲しみが貫いた。
信竜も思い出していた。
愛する柚子のそばにいつも居た、かわいらしい瞳の持ち主を。
姉を守りたいという彼のために、信竜自ら剣の稽古をつけたこともあった。
あの純粋な眼差し。
信竜も柚子と同じく、激しい後悔を味わっていた。
「武丸っ!!」
「武丸様っ!!」
二人は同時に声を上げ、骸の頭へと駆け寄った。
柚子が骸の頭を拾いあげる。
が。
骸の頭はさらさらと細かい砂の如く崩れ、柚子の指の間からこぼれ落ちた。
二人の背後で倒れていた骸の身体も砂状と化して、原形を無くした。
骸という怪物は、この世から消えたのだ。
「よかったねぇ」
冥が柚子の横へ来て言った。
「お前の復讐も上手くいった。気が晴れただろ?」
「冥っ!!」
柚子が冥に掴みかかった。
「骸は武丸だったのですか!?」
必死の形相で訊いた。
冥の片眉が吊り上がる。