169
女が微笑んだ。
「決まりだね。お前には新しい身体をやるよ。あとは」
女が、ふっと息を吹いた。
女の顔の横にもうひとつの顔が現れた。
童女の顔だ。
全てが女の顔と酷似している。
女を若くした顔だ。
「こいつをつけてやるよ。これはあたしの一部。分身みたいなものさ。力はたいして無いけど、お前をサポートさせる。まあ、サービスってことだよ」
「馬鹿だね」
童女が口を開いた。
「サポートとかサービスとか…この時代の奴には分からないんだよ」
「ちっ」
女が舌打ちした。
「分身のくせに生意気な。ちゃんとこいつの面倒を見なよ」
「言われなくても仕事はきっちりするよ」
「はあ」
女がため息をついた。
「かわいくないねぇ。本当にあたしの分身かしら?」
女が武丸に目を向けた。
「ああ、そうだ。元の場所に戻っても、お前の身体は以前とは違う。お前の正体は姉さんには知られちゃいけないよ。誰かに正体を気づかれたら、その時点で契約終了になる。お前はもう死んでるんだからね」
「はい…」
武丸が頷く。
「その辺は、あたしが厳しくするから大丈夫さ」
童女が言った。
「任せたよ」
女が返す。
「それじゃあ、そろそろあっちの世界に戻してやろうか。姉さんも危ないようだしね」
映し出されている柚子は伝兵衛にのしかかられ、乱暴されようとしていた。
「姉様っ!」
武丸が叫ぶと同時に視界が真っ暗になった。
伝兵衛に殺害されたときと全く同じだ。
ほどなく辺りの景色が見えてきた。
武丸の前の身体よりも高くなった視点から、足元に居る柚子と伝兵衛が確認できた。
「やや…」
伝兵衛が気配に気づき、こちらを向いた。
「な、何やつ!」
伝兵衛が、うわずった声で訊いた。
組み伏されている柚子も武丸を見ている。
武丸と柚子の眼が合った。
「がああああああああっ!!」
武丸が雄叫びをあげた。
以前の武丸とは比べ物にならない、恐ろしく醜い声だ。
しかし、武丸の声よりも何十倍も大きな、大気を震わす声であった。