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「まあ、落ち着きなよ」
女の顔が言った。
「あたしがお前の前に現れたのが、それと関係あるんだよ。さて、じゃあ、あっちの様子を見てみようか」
女の顔が、ふーっと息を吹いた。
すると、息のかかった暗闇が波のように揺れだした。
その部分に何かが映っている。
「姉様っ」
武丸が思わず叫んだ。
揺れが収まったところに映し出されたのは、まさしく柚子だった。
伝兵衛に脇差しを奪われ、組み伏されている。
「おや、危ないね。これから何が始まるのやら」
女の顔が意地悪く笑った。
「姉様っ」
武丸は叫ぶことしか出来ない。
その声も、この空間ではどこか空虚である。
武丸の心は引き裂かれるように痛み、両眼からは大粒の涙がこぼれ落ちた。
「助けたいかい?」
女が訊いた。
「はい」
即答だった。
「あたしはお前をここに映っている世界へ戻すことが出来る。姉さんを助ける力も与えてやるよ。ただし、条件がある」
「条件?」
「そう」
女が頷く。