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自分の声が、か細く空虚な調子を帯びていることに武丸自身が驚いた。
「ここは」
女の唇が、にやりとなった。
「死んだ人間が来るところだよ」
「死んだ?」
武丸は混乱した。
自らの様子を確かめるために首を動かそうとしたが、微塵も動かない。
気づけば手も足も身体も感覚がない。
武丸の意志で動かせるのは眼と口だけだった。
「そう、お前は殺されて死んだのさ」
確かに伝兵衛の刀が自分の胸を斬り裂いたのは覚えている。
そのときは激痛が走ったが、今は何も感じない。
「あなたは誰ですか?」
混乱したまま、武丸が訊いた。
「あたしは簡単に言うと死神みたいなものさ。どの世界の、どの時間にも自由に行き来できる」
「?」
女の言葉は武丸には理解できなかった。
「私はどうなるのですか?」
「どうにもならないよ。死んだら、この空間で永遠にさまよい続けるだけ。死んだ者の魂同士は、お互いを見ることも触れることも出来ない。無限の孤独さ」
「さまよい続ける…」
武丸が呟く。
自らに起こった出来事を消化しようと努力していた。
落ち着こうとする思考の中。
「あ」
思い出した。
自分が死ぬ直前の状況を全て。
「姉様が危ないっ!」
自分が死んだとするなら、次は柚子が伝兵衛の餌食となる。
武丸は憤慨した。
姉を助けねばならない。