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「よろしいかな?」
伝兵衛の口調には少しの緊張も無い。
武丸は八相に構えた。
腰が引けていて、まるでなっていない。
「では」
伝兵衛が言った、次の瞬間。
武丸の胸から鮮血が、ほとばしった。
伝兵衛の刀が武丸に動く暇を与えず斬りつけたのだ。
「あ」
一言発して武丸が倒れた。
ぴくりとも動かなくなった。
武丸の眼の前が真っ暗になり。
徐々に何かが見えてきた。
暗闇の中に、ぼうっと白く丸いものが浮いている。
武丸の顔のすぐそばだ。
「おい、お前」
白く丸いものが話しかけてきた。
それは女の顔だった。
若く美しい。
横一線で切り揃えられた前髪。
それ以外の髪は周りの暗闇と完全に同化していて、判別出来なかった。
形の良い鼻と唇。
紫の紅をさしている。
最も特徴的なのは眼だ。
猫科の獣の眼のように大きく鋭い。
異様な艶かしさを発していた。
「聞こえるかい?」
女が話しかけてくる。
声がやはり艶かしい。
「ここは何処ですか?」
武丸が訊いた。