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次々と兵が鮮血を撒き散らす。
信竜の猛攻にも怯まなかった歴戦の兵たちが、これには色を無くした。
兵たちの戦意が、ぽきりと折れた。
悲鳴をあげ、一部の兵が逃げだすともはや、骸に立ち向かう者は一人も居なくなっていた。
我先にと陣から逃げていく。
この有り様を見ていた信虎も兵たちと同じく血の気が引き、顔面蒼白となった。
話には聞いていたが、骸を直に見るのはこれが初めてだ。
(これほどの化け物とは…)
予想以上だ。
用心のために動員していた兵たちが皆、倒されてしまった。
骸がこちらへ進んでくる。
すぐにたどり着くだろう。
信虎の眼に、足元で座り込み必死に骸の名を呼ぶ柚子の姿が入った。
策が閃いた。
信虎の手が柚子の首根っこを掴み、無理矢理、引きずり起こした。
刀を柚子に突きつける。
「止まれ、怪物!!」
兵たちの阿鼻叫喚の中でも、信虎の戦場で鍛えた腹から出る声は響き渡った。
「この娘が死んでもいいのか!!」
骸の動きが止まった。