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童女の言葉に柚子は、はっとなった。
度重なる謎の人物の出現に驚き、頭が麻痺していたが、ようやく回復し始めた。
それに童女は何故か自分の名を呼んだ。
名を呼ばれたことによって、柚子は現実に引き戻されたのだ。
倒れていた柚子の背後からいつの間にか大男が近づいて、彼女の腰を優しく掴んだ。
壊れ物を扱う繊細さで、そっと柚子を立たせてくれた。
「柚子。こいつをどうしたい?」
童女が問うた。
柚子の答えは早かった。
先ほどまでの怒りが彼女の胸に燃え盛っていたからだ。
「殺して」
柚子の声を聞き、伝兵衛の頭はずきずきと痛みだした。
(これは何なのか?)
自分は新しい主君の命により、前城主の子供らを始末しにやって来た。
あと一歩のところだった。
以前からよこしまな欲望を抱いていた柚子をさんざんに弄んでから、殺害するはずだった。
それなのに今の有り様は何だ?
伝兵衛の生死は柚子によって決められようとしている。
伝兵衛の決断も早かった。