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諦めれば死は確定する。
自分だけではない。
柚子も殺されるだろう。
「殺せ!!」
信虎が叫ぶ。
兵の輪が信竜に向かって狭まった。
必殺の布陣。
突然、兵たちの居る場所の闇が深まった。
「?」
不可解な現象に兵たちは停止し、次にその原因を確かめようとした。
すなわち、頭上から差す月明かりを遮ったものが何なのかを確認するために顔を上げたのだ。
兵たちは見た。
密集した自分たちの上に降ってくる大きな物体を。
考える暇も与えず、その物体は真下の兵たちを押し潰した。
信虎も柚子も信竜も圧死を免れた兵たちも、この場に居る全員が呆然となった。
物体がゆっくりと立ち上がった。
その者の名を知る柚子が声を上げる。
「骸っ!?」
陣幕の外から飛来し、兵たちの上に落ちてきたのは、まさしく骸であった。
冥と共に柚子を追う途中で柚子の気配が二つに分かれた。
迷う骸に冥は二手に分かれることを指示し、それぞれ追跡を再開したのだ。