154/180
154
「お前みたいな奴は、ごまんと知ってるよ! 自分が特別だと思ってたのかい!?」
喋りながら、冥の老人の身体が童女のものに戻っていく。
「全部の時代を引っくるめりゃね、お前の力なんざ、たかが豆つぶくらいのもんなんだよ! 噛みつく相手を間違えたようだね!」
幻斎の左手が腰の刀を抜いた。
刃を走らせた先は冥ではなく、自らの右手だ。
もはや冥から手を引き離すのは無理と判断し、己の右手を切断して逃げる決心だった。
高速で振るった刃先は幻斎の右手首に、あとほんの少しのところでぴたりと止まった。
幻斎の意志ではない。
突如、全身の筋肉が硬直し、自由が利かなくなった。
幻斎の危機の予感は当たった。
今や彼の生命は童女の姿をした恐ろしい敵の手中にあるのだ。
「次はあたしの番だ。お前の力をもらうよ」
冥が言った。
幻斎の身体が落雷に打たれたように大きく痙攣した。
先ほどとは逆の現象が起こり始めた。