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「お前からも柚子の気配がするってことは…城から柚子を拐ったのは、お前だね」
そのまま、どんどん幻斎へと進んでいく。
冥の問いかけに答える代わりに幻斎が動いた。
蜘蛛の速さで、一瞬のうちに冥に肉薄すると自らの右手で相手の小さな顔を鷲掴みにしてみせたのだ。
冥に瞬きする隙さえ与えない。
「丁度良い」
幻斎が言った。
「信竜を捜すのに力が足りぬと思っていたところよ。貴様の力をもらうとするか」
幻斎の隻眼が、てらてらと輝きだした。
いつもの死人の眼ではなくなっている。
「むんっ!」
幻斎が吼えた。
すると、あり得ざる現象が起こった。
冥の身体がびくりと震えその黒髪が、みるみるうちに真っ白に変化していった。
髪だけではない。
冥の童女の肌が、きめ細かさを失い無数のしわを刻みだす。
背丈は以前として子供のままでありながら、冥の風貌はすでに老人のそれだ。
数秒で長い年月が襲いかかったのか?
冥の変化と同時に幻斎の身体にも急激な時の流れが押し寄せていた。
しかし、こちらの変化は冥とは逆だ。
骸骨のごとき老忍者の肌は一気に若返り、今や青年の容貌である。
はげ上がった頭皮からは、あろうことか艶々とした髪の毛が生えだしていた。
幻斎の全身も活力にあふれ、胸板も腕も脚も筋肉が盛り上がり、若々しさを発散した。