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四つん這いになっていた。
両腕も脚となって、枯れ木のような身体を運ぶ。
まるで獣。
否、蜘蛛だ。
四本脚の蜘蛛。
闇の蜘蛛は恐るべき隠密の業で兵たちを避けきり、信竜軍の本陣へとたどり着いた。
陣幕の外側に幻斎が座る。
数人の気配。
陣幕の向こう側だ。
幻斎は腰の刀を抜き、陣幕にそっと刺し入れた。
出来上がった切り口から、中を覗く。
具足を身につけた男たちが見えた。
幻斎の体術ならば瞬時に肉薄が可能な距離に七人。
他の六人に守られるように囲まれた一人が。
(信竜)
幻斎の隻眼が獲物をにらむ。
この場に至るまでの道中、そして本陣の様子から推測すれば信竜に降伏の意志がないのは明らかである。
(早々に信竜を始末するべし)
決心とほぼ同時に幻斎の身体は、まるで重さが消失したように、ぽーんと飛び上がった。
陣幕を軽々と越え、七人の侍へと放物線を描いて迫っていく。
無音で飛来した老人に気づく間もなく中央の人物以外の六人が突然、倒れた。