表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冥伝  作者: もんじろう
144/180

144

 息を吸うことも、ままならない。


 信虎の足元で空気を求める柚子は必死で足掻いた。


 その姿は、ついこの前まで城主の娘であったと思えば、あまりにも無惨なものだった。


 柚子の美しさが、かえって酷さを増した。


 哀れ、虫のようにじたばたとする柚子に信虎が「今、ここで死ぬかっ」と怒鳴った。


 信虎の眼つきは激しい怒りに妖しく光り、踏みつけた右足にはより一層の力が入る。


(殺される)


 あばらが折れるか、息が絶えるかというところまで追い込まれ、先ほどまでの柚子の闘志は粉々に吹き飛んだ。


 恐怖と苦痛に顔が歪む。


「殿」


 突然、声がした。


 老人の声だ。


 その声は信虎の背後から聞こえてきた。


 信虎が柚子の上に置いた足をどけ、背後を振り向く。


 いつの間に近づいたのか、信虎のすぐ近くに忍び装束の老人がひざまづいていた。


「幻斎」


 信虎が老人の名を呼んだ。


 幻斎は無表情だった。


 深いしわの刻まれた顔は、まるで樹皮のようだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ