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そう思う反面、どこか二人のことを信じたい柚子が居た。
複雑な心情に無言の柚子を信虎は観念したと思ったようだ。
「不幸な娘よ」
「………」
「せめて、お前の首を信竜の首と並べてやろう。あの世で添い遂げるがいい」
信虎の言葉が柚子の闘志に火をつけた。
「外道!!」
叫ぶと同時に自由になる両脚を使い、信虎へと躍りかかった。
唯一の武器である歯で、信虎の喉に噛みつこうとしたのだ。
しかしこれは信虎も充分に警戒していた。
数多の戦場を戦い抜いた動きで軽々と身をかわした。
柚子の攻撃は空を掻いた。
武術の心得も無く、足腰も弱い柚子は体勢を崩したたらを踏んだ。
顔から地面へ倒れ込んだが、縛られた両腕ではどうすることも出来ない。
首をのけ反らせて、何とか顔を打ちつけるのを防いだ柚子の背中を何かが押さえつけた。
信虎の足だ。
踏みつけられ、柚子の胸から一度に大量の呼気が吐き出された。
そのまま、ぐいぐいと力を込められる。