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両手の二つの首を投げ捨てた怪人は一旦後ろへ身体を反らし、その反動を用いて自らの額を侍の頭に打ちつけた。
「ひぎっ」
侍の頭がひしゃげた。
大男の勢いは止まらず、侍の身体は腰の辺りまで地面にめり込んだ。
侍は動かなくなった。
悪夢のような怪力で伝兵衛以外の男たちは皆、屠られた。
ほんの僅かな間に。
伝兵衛は柚子を離し、脱兎の如く逃げだした。
主命も忘れ、己を守るために走りだした。
先ほどまでの余裕たっぷりの態度は跡形も無い。
なりふり構わぬ逃走だ。
その伝兵衛の足を払う者が居た。
「あっ」
小さく叫び、伝兵衛は転がった。
何が起こったのか理解できなかった。
伝兵衛は自分の足を払った相手を見上げた。
伝兵衛の身体は地に伏せている。
相手は子供だった。
いつの間に、この場に現れたのか?
童女は冷たい視線を伝兵衛に浴びせていた。
歳は七、八歳というところか。
美しかった。
ただ、柚子の美しさとは何かが違った。