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信竜の表情は明るい。
「はっ」
「攻めるぞ」
やはり、信竜の心は正面からの対決に固まっている。
どれだけの犠牲が出ようとも、これこそが信竜の最も好むやりかたなのだ。
男らしいとも言えるが若いとも言えた。
こうなれば、藤十郎も覚悟を決めるよりない。
軍を押し出す指示を与えようと、そばに居る伝令に手招きした。
そこへ一人の侍が陣中へと転がり込んで来た。
藤十郎が前線に配置した伝令の一人だ。
侍は藤十郎の前にひざまずき、何かを報告し始めた。
早々と戦いに思いを馳せていた信竜が、焦れた様子で藤十郎と伝令のやり取りを見ている。
報せを聞き終えた藤十郎の顔が、やや強ばった。
「殿」
信竜のほうを向いた。
「敵方より使者が」
「使者?」
信竜が首を傾げる。
この期に及んで、何を話し合うことがあるというのか?
倒すべき相手は目前に居るのだ。
敵の息の根を止めるまで、お互いの喉笛を喰らい合う。
勝敗は天のみが知るだろう
「通せ」