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対する信竜軍は何もない平地に展開している。
若干、信虎軍が位置的には有利ではあるが両軍の数はほぼ同数。
まともにぶつかり合えば、どちらも無傷では済まない。
例えるなら、互いに刀を突きつけあった二人の剣士であった。
相手の腕や脚を斬り落としても、相手の攻撃で頭を割られるかもしれない。
迂闊には動けない。
ただ、長引けば有利になるのは信竜側だ。
共闘を約束した隣国の軍が鬼道城へと到着すれば、信虎軍は帰る場所を失う。
かといって、城へ戻ろうとすれば信竜軍が背後から襲いかかる。
信虎軍は自らを死地に置いた。
行軍中の信竜軍を攻撃していれば今頃は勝利を手に入れていたかもしれない。
これは致命的な失敗と言えるのではないか?
(信虎は勝機を逸した)
そう思いながらも藤十郎は手放しで喜べなかった。
敵の狙いが読めないことが、喉に刺さった魚の骨のように気にかかる。
「藤十郎」
どっかと腰を据えた信竜が思案顔の藤十郎を呼んだ。