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隣国と呼応し、準備の整っていない信虎軍を叩く算段が崩れた。
「数は?」
「こちらとほぼ同数かと」
藤十郎の落胆は更に深くなった。
完全にこちらの動きは信虎に知られていたのだ。
最前線でもない鬼道城に信竜軍と同規模の兵を集めるなど、こちらの裏切りを見抜いていなければ出来ることではない。
(同数の敵と野戦…)
危険だった。
確実な勝利は藤十郎の手の中から、するりとこぼれ落ちたのだ。
呆然自失の藤十郎に、背後から「手間が省けたな」と信竜が声をかけた。
「堂々と決戦を挑み、外道の首級をあげるのみ」
信竜は爽やかに笑った。
「殿…」
信竜の態度を見て、藤十郎も戦意を取り戻した。
まだ状況は五分五分である。
戦はこれから始まるのだ。
藤十郎は疑問を感じた。
信虎は、こちらの裏をかくのに成功している。
突然、現れた敵に慌てて陣立てを始めた信竜軍を何故、今、襲わないのか?
態勢が整わぬうちに攻撃すれば、戦の主導権を容易に握ることが出来るはず。
信虎は絶好の好機を見逃すつもりか?
藤十郎は、これを新たなる罠への布石と読んだ。
(何かある…)
日頃の訓練の成果もあって、信竜軍は短い時のうちに見事に戦陣を組みつつあった。
疑念はぬぐいきれないが、藤十郎はひとまず落ち着いた。
最大の危機は去ったのだ。