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柚子は脱出のために、あれほどの危険を冒した。
(早く信虎を討ち、柚子様を苦しみからお救いせねばならぬ)
信虎の死の先にこそ、二人の未来があると信竜は確信している。
軍勢の前方に、こちらへと向かってくる一頭の馬が出現したのは丁度、このときであった。
馬上の武者が何かを叫びながら近づいてくる。
あらかじめ先行させた物見の一人だ。
それを見た藤十郎が信竜を追い越し、前へと進んだ。
物見がもどかしげに馬を降り、藤十郎の元にひざまずく。
「どうした?」
藤十郎が問うた。
「敵でございます!」
物見の者は血の気を無くしていた。
「敵?」
「この先に布陣している軍があります」
「なに!?」
今度は藤十郎が青ざめた。
「旗指物は鬼道軍の物です」
物見が続けた。
「信虎が!?」
そう言った後、藤十郎は絶句した。
軍を動かした以上は、どこかで信虎に露見するのは当然ではあった。
しかし。
(早すぎる…)