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瞬きするかしないかの内に二人の侍女の喉笛をかき斬り、残った一人に刀を投げつけた。
刀は狙いを違うことなく、侍女の首を刺し貫いた。
部屋の中で動いているのは男と柚子だけになった。
男のあまりの手際に柚子は血の気が引いた。
青ざめた顔で惨状を見回すのみだ。
「あわよくば信竜を殺すつもりだったが」
男が言った。
「お前に会うとはな」
「………」
「さて、どうしたものか」
男の隻眼が柚子を見つめた。
何の感情も読みとれない眼だ。
柚子には、この男が冥や骸と同じように人ならざる者に思えてくるのだった。
最初に異変に気づいたのは冥だった。
「?」
柚子の閉じ込められた部屋の前に、冥と骸は立っていた。
城兵の目を盗み、誰にも見つかることなく、ここまでやって来たのだ。
部屋へと続く襖の前には大勢の人が倒れていた。
皆、侍の風体をしている。
異様なのは、その侍たちであった。
全員が老人なのだ。
否、老人などという生やさしいものではない。
皮膚がからからに乾ききり、骨と皮だけの干物のようになっている。
皆、死の直前の苦痛によるものか、眼を見開き、口を開け、恐ろしい表情をしていた。
「何だい、これは?」
「ううー」
冥の問いに骸は首を横に振った。
骸にこの異変の理由が分かるはずもない。