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敵の腕前を知った彼女たちは、かねてからの藤十郎の指示通り、柚子をこの場から移す決断をしたのだ。
藤十郎の指図は冥と骸が柚子を取り戻しに現れたときのためのものだったのだが。
眼帯の若い男が動いた。
壁となった三人の侍女の頭上を一呼吸で跳び越える。
柚子の手を取った侍女のそばに、すっくと降りた。
侍女が小刀を振りかざす暇も与えず、若い男が彼女の首を斬った。
倒れる侍女を押し退け、男の手が柚子の右手首を強く握った。
「柚子」
男が言った。
若々しく自信に満ちた声だ。
「独りか?」
「………」
「あとの二人はどうした?」
(冥と骸のこと?)
そう思いながらも柚子は答えなかった。
目前で侍女が斬られ動転してはいたが、半面、この男が敵か味方か分からないうちは滅多なことを言ってはならないという極めて冷静な思考も働いたのだ。
男と柚子が話している間に、壁となっていた三人の侍女は二人に迫った。
「柚子様を離せ!」
三人の侍女が叫びつつ、一斉に男の背後から斬りかかった。
男は慌てない。
握った柚子の手を、ぐいっと引っ張った。
柚子が三人の侍女の前に立つ形になる。
「!」
三人の侍女は一瞬、混乱した。
柚子を傷つけることは許されない。
三人は柚子にぶつかる直前に刃をそらした。
その隙を男は見逃さない。