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冥と骸であった。
日中とはいえ、獣さえ住まない険しい山を二人がどうやって登ったのか。
やはり人外のなせる業である。
城方の物見矢倉の見張りたちも、とても敵が登れそうもない山側は見ていない。
もし見たとしても、逆光によって影となった二人は岩の一部のように見えただろう。
冥と骸は、じっと大山城を窺っていた。
柚子を信竜に奪われた夜から三日、二人はずっとそうしているのだった。
「おや?」
冥が言った。
「動きだしたよ」
大山城の城門が開き、鎧兜に身を固めた男たちが吐き出された。
男たちは隊列を組み、冥と骸の居る山の逆側へと進んでいく。
城からぞろぞろと後続が現れ、途切れる気配がない。
その様子は、まるで一匹の巨大な蛇のように見えた。
「ふうん。戦でも始める気かい?」
冥が呟いた。
「あそこに信竜が居る」
冥の指した先に、ひときわ大柄な兵たちに守られた信竜の姿があった。
鎧姿で兜はつけていない。
悠然と馬を進めていく。