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だが万が一、それよりも速く喉を突かれては。
信竜は横に動いた。
柚子が部屋の外に向かって歩きだす。
前方の侍たちが信竜を見る。
「皆、退がれ。柚子様に手出しはならん」
信竜が言った。
侍たちが道を開けた。
部屋を出る寸前で柚子が信竜を振り返った。
「信竜様」
柚子の声は微かに震えていた。
「仇を討った後、必ず戻ります」
このとき。
柚子の背後に居た侍たちの中から、さっと飛び出した者が居た。
その男は音もなく柚子に迫り、後ろから彼女の両手を掴んだ。
「あっ!?」
柚子が驚く。
手にした脇差しに力を込めようとするが、それよりも速く襲いかかった男が柚子の片手をひねりあげた。
「ご免」
男が柚子に当て身を打った。
柚子が男の腕の中に倒れる。
気を失っていた。
「殿、ご出陣のご用意を」
柚子を捕らえた男、藤十郎が信竜に言った。
大山城を一望にする断崖の上に二つの影があった。
ひとつは大きく、ひとつは小さい。