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両の瞳がみるみるうちに潤み、涙が頬を伝い落ちた。
「仲間と言っても」
信竜の右眉が、びくびくと震えた。
爆発寸前の怒りを必死に抑え込んでいるのだ。
「柚子様を置き去りにし、助けにも来ないではないですか。柚子様の本当の味方はただ一人、信竜だけにございます」
「うう…」
柚子が泣き崩れた。
ぱたりとうずくまり、むせび泣く。
その様子に信竜は我に返った。
信虎の面影は消え、いつもの信竜に戻るとおろおろと慌てだした。
「柚子様、柚子様」
呼びかけながら柚子のそばへと進んだ。
「うう…」
「お許しください、柚子様」
信竜が柚子を再び抱きしめようとした瞬間。
柚子の細く白い両手が信竜の腰へと伸びた。
「あっ!」
信竜が狼狽した。
信竜の腰にあった脇差しが柚子の掌中で、きらりと光った。
柚子は脇差しの刃先を自らの首筋に当てていた。
信竜だけでなく、控えていた四人の侍女たちもこれには色を失った。