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(あのときの信竜様の顔…)
確かに柚子は見た。
信竜に信虎そっくりの冷酷な表情が浮かぶのを。
しかし、それはすぐに掻き消え、元の優しい信竜に戻ったため柚子は深く考えはしなかった。
否、考えるのが恐ろしかったのかもしれない。
柚子はゆっくりと顔を上げた。
嫌な予感が当たった。
柚子の前には仇、信虎に似た男が座っていた。
「どうされるおつもりか?」
信竜が、もう一度訊いた。
「仇は私の手で討ちたいのです」
「柚子様の手で? どうやって、討つというのです?」
「私といっしょに居た二人の助力で信虎を殺します」
「あの化け物たちと!?」
信竜の口調が荒くなった。
ますます信虎に似てくる。
「冥と骸は私の仲間です」
「柚子様には、この信竜がついております。あのような化け物たちは不用」
「………」
「この城で大人しく、お待ちくださいますよう。信虎は拙者が討ちます」
信竜が、ぴしりと言った。
強い失望が柚子を打ちのめした。