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家臣としての態度であった。
信竜の馬鹿正直とも言える行動だ。
「信虎を討つ用意が整いました」
信竜が爽やかに言った。
(では、信虎はまだ生きている)
柚子は内心、ほっとした。
「これより、兵を率いて信虎の居る小諸城を攻めまする」
信竜が、にこりと笑った。
柚子は考えた。
(これから? 戦になる? それでは信虎が討たれてしまう)
冥と骸と共に柚子自らが信虎を討たねば意味がない。
「必ずや信虎の首をはね、柚子様にご覧に入れましょう」
信竜が続けた。
「それまでこの大山城にて、お待ちいただきますよう」
「信竜様」
柚子は思い切った。
「私を城の外へ行かせてください」
「は?」
信竜は意表を突かれた。
口が、ぽかんと開いている。
「お願いします」
「………」
「柚子、一生のお願いです」
柚子が頭を下げた。
自力での脱出が望めない今、信竜に全てを話し理解を得ようと考えたのだ。
誠心誠意、心の内を語れば信竜は分かってくれるはず。
「城を出て、どうされる?」
信竜の声は恐ろしく冷たかった。
柚子が今まで聞いたことのない声だ。
柚子は下げた頭を上げ、信竜の顔を見るのが怖くなった。
嫌な予感が全身を駆け抜けた。
冥と骸が姿を消したとき、二人を追おうした柚子を信竜は止めた。